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旅の移動手段は遅いほど良い

旅の移動手段は遅いほど良い

様々な旅の移動手段

雪の降る米沢駅

旅をしようと思った時、絶対に必要になるものが移動手段だ。

どこに行くにしても何をするにしても、ただ立ち止まっていては旅はできない。 何かしらの手段で移動しなければ旅は始まらない。

あまり日数が取れないから飛行機で手早く、という人もいるだろう。

ちょっと余裕があるから車でじっくり、という人もいるだろう。

いやいや、自分は自転車で日本一周するんだ、という人もいるだろう。

乗り物なんてつまらない、歩いて世界一周するんだ、という人もいるかもしれない。

誰しも金と時間、そして体力を無制限に使えるわけではない以上、なんらかの制約の中でこうした移動手段を選択していくことになる。 だがもしもそうした条件を一切考慮しなくても良いとなったら何を選ぶのが一番楽しいだろうか。

これは自分の中ではほぼ答えが出ている。

徒歩こそが最も旅を楽しむことができる移動手段である、と。

徒歩はもっとも自由な移動手段

先行者

徒歩の良さとは他の移動手段に比べて圧倒的に自由であることだ。

進むも戻るも立ち止まるも全てが自由だ。 時間に縛られることもなく、駐車場を気にする必要もなく、体力の続く限り自由に進むことができる。 小さな川があったら靴を脱いで渡ってもいい。 ちょっとそこら辺の山を越えて向こう側の町に行ってみることだってできる。

最近は車で旅をすることも増えたが、運転中に何か気になるものがあっても駐車場が無ければ停まって確認することもできない。 それ以前に運転に集中していなければならないので、その何かに気付きすらしないことも多い。

徒歩は他の移動手段に比べて圧倒的に速度が遅いが、その分目に入る情報は他の手段に比べて圧倒的に多い。 ちょっと立ち止まることも、後ろを振り返るのも、空を見上げるのだって、何を気にすることもなくいつでもできる。

移動が遅いゆえに様々なものが目に入る

山の神
晩秋の霜
光を求めて
春来たる
生き抜く
雨上がりのチングルマ

そうしてあちこち視線を巡らせながらゆっくり進んでいると、本当に様々なものが目に入る。 足元に咲く小さな花であったり、木の枝を走るリスの姿であったり、目立たない隠れ家的なカフェだったり、民家の壁に飾られた可愛いシーサーだったり、珍しい形のポストだったり、あるいは空に浮かぶ彩雲だったり、虹の切れ端だったり。

自転車程度の速度ですら簡単に見落としてしまうようなものが、ゆっくりと歩いていれば自然に次から次へと目に飛び込んでくる。

こうした小さな出会いの積み重ねこそが旅の醍醐味だと思うのだ。

徒歩最大の難点は時間がかかりすぎること

そんな素晴らしい移動手段である徒歩だが、その最大の難点はやはり移動に時間がかかりすぎる事だろう。 速度が遅いことは最大の利点でもあり、欠点でもある。

時間が無限にあるのならいつまでもどこまでも歩いて行きたいと思うが、現実はそうもいかない。 旅に時間を使いすぎれば収入を得る時間が減るし、旅にかけた時間の分だけ歳を取っていく。 歳を取れば体力も徐々に落ちていくので徒歩で旅ができる時間もだんだん少なくなっていく。

こればっかりはもはや自然の摂理みたいなものなので受け入れていくしかない。 後はその限られた時間の中でどんな旅をしていくかが問題だ。

増えない同志

そんな考え方を今まで何人もの人に話したことがあるが、それに賛同してくれる人がなかなかいないのは寂しいところ。 なんでそんな疲れるだけのことするのか、とか、時間がかかるばかりで面白くなさそう、とか、車とか飛行機使えば楽なのに、とか言われることがほとんどだ。 すごいねとか楽しそうだねとか言われることはあっても、じゃあ自分もやってみる、と言う人はまずいない。

ただ一度だけ、まったく同じ考え方をする人と出会ったことがある。

その人はもう80歳にもなるかなり年配の男性だった。 彼もまた若いころに旅をしていたそうで、同じように「旅の手段は遅ければ遅い方がいいんだ。車よりバイク、バイクより自転車、自転車より徒歩。その方が色々なものが見えるから」と言っていた。 これを自分の口以外から聞いたのは初めてだったので、少々の驚きと興奮を覚えた。

確かにこの考え方で旅をするのはやたらと時間もかかるし、ひたすらに疲れる。 時には丸一日歩いて何も面白いものがなかった、なんていう日もある。 それでも今まで徒歩以外に飛行機、鉄道、船、車、自転車と様々な移動手段を使って旅をしてきた中で、一番楽しくて充実していたなと感じるのはやはり徒歩の旅なのだ。

きっとこれは説明してわかってもらえるような類の話でもないだろう。 実際にそれを体験して実感しない限り理解してもらえないのだと思う。 あるいはやってみたけどやっぱりわからない、という人もいることだろう。

これが万人に受け入れられる思想だとは思っていないが、少しでもこの楽しみを知る人が増えてくれたら嬉しいなぁと思っている。

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