以前、ネパールでトレッキングを楽しんでいた時のことだ。 地図を見ていたらその中にパインツリーという文字を見つけた。 英語の地図だったので実際はpine treeと書かれていたわけだが、それを見て当時の自分はこう思った。
「ネパールのこんな山の中でパイナップルなんて作ってるのか」
だがそれはとんだ勘違いだった。
地図に書かれた場所に差し掛かり、きょろきょろしながらパイナップルの姿を探す。 しかしいくら探せど見つからない。
周囲にには日本のものとは少し雰囲気の異なる松の木ばかり。 葉が少し長く、少し柔らかい。 足元には細長い形の松ぼっくりもあちこちに落ちていた。
それもそのはず、帰国してからようやく知ったのだが、パイン(pine)とは松の木の英語名だったのだ。
日本語のパイナップルは英語でpineapple。 これはそのままpine(この場合は松ぼっくりの意)のようなapple(この場合はりんごではなく果実の意)という意味だ。
日本ではパインジュースとかパイン缶といったように、パイナップルの事を単にパインと呼ぶことがある。 そのため日本人にとっては単にパインと聞くとパイナップルを想像してしまうが、元々のパインという言葉は松の木を指すというわけだ。
そうなると英語圏の人にパイナップルジュースのつもりでpine juice(パインジュース)と言ったらやはり正しく伝わらないのだろうか。 松の樹液を飲む変な人だと思われてしまうかもしれない。
そもそもパイナップルは木ではなく、草本に分類される多年草だ。 なのでtreeとついている時点で気付いてもよかったかもしれないが、そこまで頭が回らなかった。
余談だがバナナも同様に草本に分類される。 茎もかなり太いし高さも2m以上になるしでいかにも木のような姿をしているが、それでも木ではなく草なのだ。
日本語は多様な外国語を取り込んで使用しているが、紆余曲折を経て本来の言葉の意味からずれてしまったものも多い。 日本語として使う場合はそれで通じるので問題ないが、今回のように急に英語として本来の使い方がされているのを見ると混乱してしまうことがある。 でもそうしたきっかけでもないと本来の意味を知ることもなかっただろうし、それはそれで面白い経験だったと思うのだ。