こんな話を耳にしたことがある人もいるだろう。
「北海道では氷点下の気温にマイナスをつけない」
例えば朝の気温が-15度だった場合に「今朝は15度だった」というようにマイナスをつけずに表現するというのだ。 これは本当だろうか。
実際のところ、そういう地域もあればそうでない地域もある。 北海道だから皆が皆そういう表現をするわけではないが、地域や人によっては確かにそういう表現をすることがある。
というのも、一口に北海道と言っても非常に広いのでそのすべてが等しく冷え込むわけではない。 プラスとマイナスを行き来する程度のあまり寒くならない地域もあれば、ほとんどプラスにならないような極寒の地域もある。 北海道でも気温がプラスになる日が珍しくない地域ではやはりマイナスはマイナスと表現するので、「北海道では」というくくりで語るのは的外れだろう。
暖かい地域に住んでいるとなかなかイメージできないかもしれないが、本当に寒い地域では冬になると昼間でも0度を超えない日が多くなる。
日本で寒い地域と言えば北海道だが、中でも道東の内陸部は恐ろしいほどの冷え込みを見せる。 朝の気温がマイナス20度を下回ることは日常茶飯事、マイナス30度以下になることもあるし、過去にはマイナス40度を記録した地域もあるという。 昼になって太陽が出ているのにマイナス10度以下ということも珍しくない。
そんな地域ではもはやマイナスであることが当たり前すぎて、わざわざマイナスをつけることをしない人は確かに存在する。
以前冬の北海道を旅した時、十勝平野を北上して足寄から阿寒湖、摩周湖方面へと抜けたことがある。 この辺りは北海道でも特に寒い地域だ。
しかもこの年は例年に比べてもかなり冷え込みが強かったようで、10日以上連続で朝の気温がマイナス20度を下回っていた。 その道中の足寄では一度だけマイナス30度を下回った日もあった。
その日、道沿いで見かけた店に立ち寄った際に店員のおばちゃんがこう言った。
「今朝は30度超えたねぇ」
確かにマイナスを付けなかったし、しかも「超えた」と言った。 関東に住む自分にとって気温の表現で「超えた」というと「その気温より高くなった」という意味で理解する。 しかしそのおばちゃんは「今日はマイナス30度よりも気温が低くなった」という意味で「今朝は30度超えたねぇ」と言ったのだ。
一瞬どっちの意味で理解するべきか迷ってしまったが、改めて考えてみればこの地域の人にとってはこれが自然な表現なのだろう。
そうした地域では春になって気温が0度を超えたらプラスをつけて表現するのだろうか。
これについては今のところ確認したことがないのでわからない。 また北海道を旅することがあったら地域の人達に尋ねてみたいところではある。