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自然風景の「撮って出し」は正義か

自然風景の「撮って出し」は正義か

撮って出しとは

撮って出しの作品

写真の世界で使われる撮って出しとは一般に撮影後にRAW現像、加工などを施していない撮ったそのままの状態の写真の事を指す。

一部には「撮って出しこそ写真のあるべき姿」という主張も見られる。 それも一理あるなと思うこともあるが、なかなか全てにおいて賛同し切れない部分があるのも事実だ。 今回はその辺りについて少し考えてみたいと思う。

撮って出しのメリット

撮って出しの性質上、そこに写った色やコントラストは紛れもなく自然の光に由来するものだ。 そこには人の手が一切入っていないわけだから、人の手による不自然な加工の痕跡を感じるリスクはゼロになる。

いわゆる「写真らしさ」を強く感じるのはこの撮って出しで仕上げた時だろう。

撮って出しのデメリット

その反面、撮って出しは明暗差の大きい場面では不自然な絵になりやすい。

フィルム時代に比べればデジカメのダイナミックレンジはかなり向上していると言われるが、それでも肉眼のそれには及ばない。 肉眼でははっきり見えていたのに、写真ではものすごく暗くなっていたり、逆に必要以上に輝いていたりすることも珍しくない。 それがセンサーの限界を超えると白トビや黒潰れとなってしまう。

そういったシーンを撮って出しでそのまま仕上げると、肉眼の印象とは大きくかけ離れたものになってしまう。

自然風景と撮って出し

このダイナミックレンジの問題は自然風景を撮影するときに特に問題になる。

撮って出し
RAW現像

これらは雲海に露出を合わせた写真だが、どちらが自然な雰囲気だと感じるだろうか。

撮って出しの方は太陽周辺はあまりにも白く、逆に紅葉した山は黒くてほとんどディテールがわからない。 実際にこの場面を肉眼でも見ていたが、太陽の丸い形はきちんと見えていたし、朝日を受けて輝く紅葉の山肌はもっとはっきり見えていた。 その印象に近付けるために最低限のハイライトとシャドウを調節したのが右のRAW現像写真だ。

この2枚のどちらが良いかと聞かれたら、自分は確実に右を選ぶ。

肉眼とデジカメの性質の違い

ここで少し肉眼とデジカメの見え方の違いについて考えてみたい。

肉眼で風景を見るとき、人間の目は注視している場所へ自動的に露出を合わせてくれる。 明るい部分を注視すれば瞳孔が狭まり、暗い部分を注視すれば瞳孔が開く。 視線を動かすたびにこれは無意識下で非常に滑らかにおこなわれている。 そうして知らずと明るさの調節された映像を、脳内では一続きの自然な映像として認識する。

対してカメラの場合はシャッターを押したその瞬間に画面全体に対してただひとつの露出を決定する。 そのためどうしても明るい方か暗い方かどちらかに偏ってしまうのだ。 もっとも上の話を考慮すれば、その一瞬に於いては肉眼が見ている映像もデジカメが写し撮る映像も大差はないのだと思う。 肉眼の場合は視線を動かすたびに脳がうまいことやってくれているだけで、実際にその一瞬を切り取れば結局は上の撮って出しの写真に似たような映像を見ているはずだ。 そう考えれば撮って出しの写真もあながち不自然だとは言えないのかもしれないが、それでも感覚的に不自然だと感じてしまうのは仕方ないことだろう。

その写真で伝えたいものはなんなのか

結局のところ撮って出しを良しとするかどうかは、その写真をもって何を伝えたいかによるだろう。

自分の場合は「自分の眼で見た風景の印象を伝えたい」というのが大きな目的のひとつとしてある。 そうなると純粋に撮って出しで仕上げてしまうと「こんなに極端な明暗差はなかったのになんだか不自然だ」と感じてしまう。 なのでその印象に近づけるために最低限のRAW現像を施して作品を仕上げるようにしている。

それでもまだ腕が未熟な部分もあり、本当に伝えたい写真に仕上がっているかと言われると時々自信がなくなる。 その辺りは腕を磨いていくしかないかなと思う。

撮って出しで自分の目的に沿うものならばそれで良し、そうでないなら目的に沿うような修正をすれば良い。 カメラは所詮表現するための手段のひとつでしかない。 カメラだからこのように使わなければならないという決まりはないのだ。

今後のセンサーの性能向上に期待

デジカメが一般的になってまだせいぜい20年少々といったところか。 そのわずかな期間でよくここまで性能を向上させたなと思うが、もしこれがさらなる向上を見せればやがてデジカメのセンサーが人間の眼に追いつく可能性もあるかもしれない。

もしそうなった時はあらゆるシーンが撮って出しで自然な仕上がりになるようなカメラが完成することだろう。

そんな未来が生きている内に実現されたらいいなと思っている。

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