帯広を後にして十勝平野を北へ進む。
十勝平野で大きな町は帯広周辺だけで、平野部の大部分には畑が広がっている。 しばらくは町の風景が続いていたが、それももう途切れようとしていた。
ここから先はしばらく食事ができる場所が無さそうなので、その前にと目についた店でランチを食べていく。
このティーショップ勇三は以前ライダーハウスもやっていたそうだが、今はカフェ営業でやっているという。 勇三というのは旦那さんの名前だそうだ。
通常のメニュー以外に「今日の定食」というメニューがあり、その日手に入った食材をおかみの気分で仕上げてくれるらしい。 何が出てくるか気になったのでそれを注文してみた。
今日の内容は玄米のご飯と豚の生姜焼き、味噌汁、小鉢数種。 地元の食材と自然の調味料にこだわっているそうで、素朴ながらバランスの良さそうな仕上がりになっている。 味付けも自分の好みに合っていたので美味しく頂いた。
音更町の市街地を抜けるとその先は広大な農業地帯だった。 牧場や畑が広がり、建物はその数を極端に減らしていった。
その開けた土地に送電鉄塔が列をなしている。
電気に限らないが、このひたすらに広い北海道でインフラを整備するというのは並大抵の苦労ではないだろう。 水道にせよ道路にせよ、何もかもが膨大な距離に渡って作っていかなければならず、またそれを維持していかなければならないのだ。
そうして様々な困難を乗り越えて開拓を進めた結果、今の北海道は日本における食料の一大生産拠点となるに至った。 ここ十勝の食料自給率はカロリーベースでなんと1000%を超えているという。 普段お世話になっている食材の中にも北海道から運ばれてきたものは多いだろう。
帯広を出て二日、十勝平野の北端に位置する上士幌町までやってきた。
観光案内所で美味しい店を聞いてみたら金亀亭という店を紹介されたので行ってみる。 評判の豚丼を大盛りで注文。 メガ盛りというのもあったが、ご飯だけで1kgあると聞いてさすがにやめておくことにした。
豚丼の大盛りは器から肉がはみ出そうになるぐらいのボリュームがあったので、充分に腹が満たされた。 メガ盛りも気になりはするが、無理して食べても美味しくない。 この大盛りぐらいが自分には程よいボリュームだ。
上士幌から東へ向かい、緩い峠を越えて足寄の町へ下りる。
この足寄から北へ向かえば日本一の寒さで名高い陸別町へ、東へ進めば阿寒湖や摩周湖へと繋がっている。 陸別町もなかなかそそられるのだが、今回は阿寒湖を経由するので東の国道241号へと進んでく。
足寄では気になるハンバーガー屋を発見。
実はパン屋だけではなくハンバーガー屋にも目がないので、見つけるとついつい入りたくなってしまう。 しかもここから阿寒湖方面に進むと40㎞ぐらい何も店がない可能性があるので、ここらで美味しいものを食べておきたい。
もっともここ最近だいたい毎日美味しいものを食べている気はする。 まぁ美味しいものはいくら食べても損はしないので今日も食べていくことにする。
注文したのはしあわせラクレットベーコンエッグバーガー。
わくわくしながら待つことしばし。
運ばれてきたハンバーガーは見るからに美味しそうだ。 その見た目だけで涎が出てくる。 大きなバンズにハンバーグと一緒に挟まれた2枚の厚切りベーコン、その上にはとろりと融けたラクレットチーズ。 さらに目玉焼きと新鮮な野菜。
期待を裏切らず絶品だった。 今まで色々な個人のハンバーガー屋に入ってみたが、ここはその中でもトップクラスに美味しい。 やはりハンバーガーはこだわりの個人店に限る。
そういえばこの店に入った時、大荷物を背負ってはいたものの特に旅人だとは名乗らなかった。 それなのに向こうから「今日はどこまで歩くんだ」と聞いてきた。 冬に歩いて旅する人間の存在をナチュラルに認識していることに少々驚き、そして少し嬉しくなった。
町を離れてもしばらくは狭い山間部に細長く伸びる農村部が続いていた。 この辺りは飼料用のデントコーンを作っているところが多いそうだ。 「もろこし街道」という看板も見かけた。
その道中でずっと会いたかったあの子に偶然会うことができた。
その子の名前はシマエナガだ。 写真でその愛らしい姿を見てからというもの、この目で実際に見てみたいとずっと思っていたのだ。 どこからともなく白い小さな鳥が数羽飛んできたと思ったら、それがシマエナガだった。 冬の寒さに膨らんだスズメも可愛いが、膨らんだシマエナガはそれ以上に可愛い。
シマエナガは名前からわかるようにエナガの仲間で、胴体と比較してかなり尾羽が長い。 シマは縞ではなく島と書き、北海道という島にいるエナガという意味で付けられた名前だ。 本州にいるエナガと違い羽以外が白いのもまた魅力だ。
スズメよりさらに小さい鳥で、体重はなんと8g程度しかないそうだ。 一円玉8枚、あるいは500円玉1枚分程度の重さしかないのだという。 一度手に乗せてみたいものだ。
足寄の町から阿寒湖までは50km以上もあり、だいぶ長丁場なので途中でキャンプを挟みながら進んで行く。
上足寄の辺りでキャンプした時は朝のテント内が-21度まで下がっていた。 外気が-20度を下回ることはあったが、人間の体温があるテント内がそこまで下がることはほとんどない。 余程外気が冷たかったのだろう。
その日立ち寄った上足寄のA-COOPで店員と話していたら、朝は-32度まで下がっていたのだと教えてくれた。 それは寒いわけだ。 というか-32度なんて今まで雪山でも経験したことのない猛烈な寒さだ。 道理で夜中に何度も寒さで目が覚めたわけだと思う反面、人間はそんな寒さの中でも装備さえあれば意外と眠れるものなのだなとも思った。
そういえばその時の店員さんは気温の事を「今日は30度を超えた」という表現をしていた。 北海道では気温のマイナスを省略する人がいるという話は聞いたことがあったが、それは本当だったようだ。
道を進むにつれてやがて遠くに雌阿寒岳と阿寒富士の姿が見え隠れするようになってきた。
その頃だったか、一台のパトカーが後ろから追い抜いていき、またしばらくして戻ってきた。 パトロール中なのだろう。 戻って来た時にこちらのすぐ前で車を停め、声をかけてきた。 この先しばらく何もないのにこんなところを歩いていて大丈夫なのかと心配したそうだ。
慣れているのでと答えると納得してくれたが、その時に「もしかしたらアナモタズがいるかもしれないから気をつけるように」と言われた。 アナモタズとはなんだろうと思ったら、冬眠しないヒグマのことだそうだ。 冬眠で寝床にする穴を持たない、すなわちアナモタズ。 確かにそれはある意味一番出会いたくないものだ。
立ち寄ろうと思っていたカフェ・クマゲラは冬期休業中。 やはり半ばの予想通り、足寄の町から先では食事ができるような店は無さそうだ。 この先で農村エリアを抜けるとそこから阿寒湖まではずっと樹海の中になるはず。 足寄で美味しいハンバーガーを食べておいて正解だった。
完全に樹海に入り込んでから3時間は歩いたか。 足寄峠を越えると足寄町から釧路市に入った。 その先は緩い下り坂に変わるが、樹海はまだまだどこまでも続いていた。
この辺りは国道にも関わらず、ほとんど車通りがない。 時折車が通る時以外は静かなものだ。 風もほとんどないので鳥のさえずりが良く聞こえる。 時折聞こえる甲高い声は鹿のものだろうか。
足寄峠からさらに2時間程歩くと行く先に雄阿寒岳が見えてくる。 それからしばらくして阿寒の集落へ辿り着いた。
阿寒湖の湖畔に広がる観光エリアにはそれなりに人の姿が見られた。 観光エリアにはさほど興味がないので、途中のセイコーマートで買い出しだけして凍った阿寒湖を散策しに行く。
阿寒湖にはフロストフラワーに期待してやって来た。 以前も冬に素晴らしいフロストフラワーが見れたので、また見れないかと思ったのだ。 しかし今年は湖の水位が例年より低く、以前にフロストフラワーが綺麗に見れた場所が今年は不作だという。
ならば他にどこか綺麗に見える場所はないかと色々探してみたのだが、残念ながら絵になる場所は見つけられなかった。
それだけで阿寒湖を通り過ぎるのもなんなので、夜の花火を見ていくことにした。
阿寒湖では冬の間「阿寒湖氷上フェスティバルICE・愛す・阿寒 冬華美」というイベントが開催され、その期間中はなんと毎日凍った阿寒湖上で花火が打ち上げられるのだ。 イベント会場に観覧席は用意されているそうだが、人混みは苦手なので少し離れた湖上から遠目に眺めて楽しんだ。
翌朝、場所を変えてもう一度フロストフラワーを探しに行ってみる。
こちらも数こそ多いものの、ひとつひとつの育ち具合が今一つだ。 以前見たようなまさに白い氷の羽根といった感じの美しい結晶は見られなかった。 こればっかりは運なので諦めも肝心だろう。
その代わりと言ってはなんだが、霧氷の森に朝日が射し込む光景はなかなかに美しかった。
ところで今回の旅ではよく生卵を買ってはラーメンに入れて食べている。 卵は栄養バランスとコストパフォーマンスに優れ、たんぱく質もしっかり摂れるという素晴らしい食材だ。
道東の強い冷え込みに晒されるようになってからというもの、荷物の中の生卵が毎日のように凍る。 凍った生卵は膨張して自然にひび割れてしまうこともあるが、そうなると生卵のようにぱかっと割ることはできない。 茹で卵のように剥くこともできるが面倒ならば5秒ほど熱湯に浸けると良い。 そうすることで殻の内側だけが融け、その状態で殻を広げると凍った中身がころりと出てくる。 それをラーメンを茹でる時にでも一緒に放り込めば、麺がゆで上がる頃にはちょうど良い感じで食べ頃になっている。
阿寒湖を後にして国道241号を東へ、次は摩周湖へ向かう。 しばらく前に十勝平野に入ってからというもの驚くほど長く晴天が続いていたが、今日は久しぶりにどんよりとした空模様となっていた。
雄阿寒岳の横を巻くように進んで行くと双湖台という展望地がある。 そこから見えるのは手前がペンケトー、左上にほんの少しだけ白く覗いているのがパンケトーだ。 これはアイヌ語で「ペンケ:上の」「パンケ:下の」「トー:湖」という意味で、上流側にあるのがペンケトー、下流側にあるのがパンケトーになる。 パンケトーの方は言われなければわからない程度で、展望地としては今一つか。
そこからさらに進むと今度は双岳台という展望地があった。
先程の双湖台と異なり、こちらの景色はなかなかのものだ。 正面に大きく雄阿寒岳が見え、その左に雌阿寒岳と阿寒富士の姿が見える・・・とネットには書かれている。 残念ながら今回は雲が抜けず中途半端な景色となってしまった。 しかし晴れて朝の光が当たれば、あるいは沈む夕日が見えればさぞ素晴らしい光景になることだろう。 ここはまたいずれ改めて撮りに来たいものだ。
双岳台から一度稜線に上がり、近くの小ピークまで行ってみる。
稜線上からは弟子屈方面にある辺計礼(ペケレ)山などが見える。 その奥には薄っすらと摩周岳の姿も確認できた。 次なる目的地はあの摩周岳がある摩周湖だ。
永山峠を越えると弟子屈町に入る。
それと同時に斜面の傾斜が急にきつくなる。 地形図を見るとこの峠の西側は等高線の間隔が広いのに、峠を越えると急に等高線が詰まってくる。 なぜこのような地形になったのか少々気になる。 周辺は火山帯が広がっているし、何かしらの火山活動によるものだろうか。
その急斜面に付けられたぐねぐねと続く道を下っていると、一台の車が近くに停まって運転席から男性が声をかけてきた。 羅臼で漁師をしているというその男性も昔旅をしていたことがあったそうで、気になって声をかけたという。 しばらく立ち話をした後、もし羅臼に来るようなら連絡してくれと言って名刺を渡してくれた。
阿寒湖を出てから30km、樹海の広がる山道もようやく終わって弟子屈の平野部に出た。 摩周岳もだいぶはっきり見えるようになってきた。
弟子屈の町に入って道の駅摩周温泉に寄って行く。 駐車場脇には大きな雪だるま。 なかなかの力作だ。
中の売店にはハンバーガーのメニューが張り出されていた。 えぞしかバーガーや摩周ポークバーガーなど、地元の特色を生かしたバーガーを出しているようだ。 気になったのでひとつ注文しようとしたら、今日はバンズが入荷できておらず作れないと言われた。 運が悪いが仕方ない。 代わりに豚まんを買って小腹を満たす。
出発しようとした時、店員さんが「インスタにアップしたいので写真を撮っても良いか」と言うので、外の雪だるまの横で記念撮影をしていった。
その後近くのスーパーで5日分の食料を買い込み、摩周湖第1展望台へ向かった。
9km程歩くと摩周湖台1展望台へ辿り着く。
摩周湖の湖面はそのかなりの部分が凍っていた。 摩周湖は不凍湖ではないので凍らないというわけではないが、かなりの水深があるためかなり凍りにくいのだそうだ。 しかしここしばらくは強い冷え込みが続いたので、さすがに耐えきれなかったのだろう。
雲は多くどんよりした天気になってしまったが、雲の位置が高いので景色は比較的遠くまで見えた。 摩周湖の向こう側には斜里岳の姿も見えている。
後ろを振り返ると先日訪れた阿寒湖周辺の山並みが見えた。 一番目立つのが雄阿寒岳で、その横には雌阿寒岳と阿寒富士の姿も確認できる。
摩周湖第1展望台から摩周湖の外輪山を反時計回りに進む。
外輪山は思いの外なだらかな斜面になっていて割と歩きやすく、また展望もなかなか良い。 外輪山の外側を見下ろすとダケカンバの森が遠くまで広がっていた。 特徴的な白い樹皮をした木がびっしりと山肌を埋め尽くしている。
行く先に西別岳も見えてきた。 今回はあそこまで行かないが、尾根伝いに縦走することもできるようだ。
外輪山から逸れて200m程標高を上げると摩周岳の山頂に辿り着く。
山頂のすぐ先は断崖絶壁。 そこから覗くと摩周岳の火口と凍った摩周湖が見えた。 この火口は摩周湖を形成するカルデラができた後に別の火山活動によりできたそうだ。
いつの間にか雲がだいぶ低くなり、遠くの景色は見えなくなっていた。 せっかく360度遮るものの無い展望地なのに残念なことだ。
時折雪も降ってくる。
落ちてくるのは綺麗な結晶の形をした雪だった。 もう何度も雪の結晶は見ているが、初めてこれを見るまでは肉眼で普通に見えるものだとは思っていなかった。 よくある雪の結晶の写真などはきっと顕微鏡で撮影したものなんだろうなぁと思っていたのだ。
外輪山に沿ってさらに進むと、出発した摩周湖第1展望台のちょうど反対側、裏摩周展望台に辿り着いた。
裏摩周展望台からは摩周岳を左手に見ながら摩周湖を一望できた。 この裏摩周展望台に続く道は冬期閉鎖されるため、冬のこの景色は雪の中を歩いてこないと見ることができない。
雲はさらに低くなり、摩周岳の山頂も雲の中へと消えていた。 摩周湖の湖面はついに全面結氷したようで、その上に雪が積もり真っ白な雪原になっていた。
夕暮れが近付くと少し雲が減ってきて、その隙間から太陽が見え隠れするようになった。 流れる雲の影が雪に包まれた湖面の上を流れていく。 なかなか見応えのある光景となった。
翌朝、早起きして展望台に登ると美しい月夜の風景が見られた。 夜明け近くのブルーアワー、青味を帯びる世界を月の光が際立たせていた。
斜里岳も綺麗に見えている。 今日は良い天気になってくれるといいのだが。
裏摩周展望台からもう少し外輪山に沿って進んだ後、北側の斜面を下っていく。
誰もいない冬の森。 鳥の姿はよく見るが、動物となると足跡だけでなかなかその姿を見せてはくれない。 そんな中、珍しく雪の上を歩く小さな影を見つけた。 リスかなと思ったがそれよりもだいぶ小さい。 遠目ではっきりとはしなかったが、恐らくネズミだったのだろうと思う。
急いでカメラを取り出そうとしたものの、その矢先に視界の左手から飛んで来た鳥がそのネズミらしき動物を一瞬でかっさらってしまった。 その鳥は近くの木の高い所へ止まり、そこで獲物を食べ始めたようだ。 木の隙間から見えた羽根の感じからすると恐らくはカケスか。 写真を撮り逃がしたのは残念だが、珍しい瞬間を目撃することができた。
しばらく森の中を進むと神の子池に辿り着く。 極めて透明度の高い水と、それを通して見える緑色の水底が美しい。
さほど大きくないこの池が厳冬期でも凍らないのは、少し遡ったところにある源流から一年を通じて水が湧き出し続けているからだそうだ。 安定して8度に保たれた水が常に流れ込むことによって、凍結を免れているという。 その湧き出す水の量は一日あたり12,000tにもなると書かれている。
ここ数日続いた雪山歩きから再び車道歩きに戻る。 道道1115号をオホーツク海方面へ北上する。 4桁の都道府県道があるのも北海道ならではか。
斜里町の市街地に差し掛かった辺りでランチにする。
しれとこ里味。 知床で獲れた海産物にこだわった食事処だ。 海鮮丼や炭火焼、かき揚げなどのメニューが揃っている。
名物はつぶ貝のかき揚げ丼とのこと。 かき揚げが1つのレギュラー丼と2つの大盛り丼があったので大盛り丼を注文。 更にご飯大盛りが無料だったので大盛り丼の大盛りにした。
知床斜里駅を抜けて海沿いの道へ出る。
どこか寝るのにいい場所はないかと探していたら、ふと視線を感じた。 50m以上離れた場所から一匹のキタキツネがじっとこちらを見ている。 こちらも立ち止まってしばらく見つめ合う。 しばらくそうしてから再び足を動かそうとしたらキツネは素早く走り去ってしまった。
翌朝、夜明けを待たずに出発する。 今日は久々に空気が綺麗に澄んでいるようで、月がずいぶんとくっきり見えた。
海岸に出るとそこにはたくさんの流氷が打ち上げられていた。 その向こうには遠音別岳や羅臼岳などの知床半島に連なる山々が見えている。 函館を出発して今日で46日目。 思えば遠くへ来たもんだ。
摩周湖からは遠目に見ていた斜里岳も今は目の前にある。
知床半島のオホーツク海側中程にあるウトロまではここから30km少々。 そのまま海沿いを歩いてもいいが、少し気になっている場所があるので寄り道をしていく。
今ではすっかり有名になった天に続く道。
ほぼ一直線に28km程続く道をその始点から見下ろすことができる。 目の錯覚も相まってまさに道が天に向かって延びているかのように見える。
しばらく前に通った日本一長い直線道路の方が距離的には長いが、あそこは上から見下ろせるような場所がなかったので長さを実感できなかった。 ここは長さこそ負けているが、その眺めは明らかにこちらが優れている。
せっかく小高い丘に登ったので、そのまま少し丘の上を歩いてみる。 すぐ先に除雪はされていないが海まで繋がっていそうな道があったのでそちらへ進んでみる。
丘の上には農地が広がっていたが、当然のごとく雪に埋まっていて人の気配も何もない。 除雪されないような場所なら当たり前か。
再び海沿いの国道に出て、そこから先はひたすらオホーツク海に沿って知床半島の先へ向かって進んで行く。
途中でエゾシカファームという看板と、休憩所のようなものが見えたので少し休んでいく。 最初エゾシカファームというのは単に牧場の名前で普通に牛がいるのかと思っていたら、その名の通りエゾシカを飼っている牧場だった。 ご自由にと書かれた休憩所のすぐ先にはたくさんのエゾシカがいた。 柵の近くまで行くとエゾシカたちは立ち止まって一斉にこちらに目を向けてきた。
左手にずっと流氷の浮かぶ海を眺めながら淡々と進む。
以前も冬にこの辺りを訪れたことがあるが、その時は海岸線から水平線までびっしりと流氷で埋め尽くされていた。 それこそ樺太まで歩いて行けるのではないかという感じだったが、今年はそこまでの量はない。
夕暮れまでには無事ウトロに辿り着いた。
プユニ岬の近くで沈む夕日を眺める。 流氷には程よく隙間があり、そこから覗く海面が夕日の光に輝いている。 最初は黄色く、やがてその色が赤に変わろうとした辺りで夕日は雲の裏へ隠れていった。
夕日が完全に見えなくなるまで眺めた後、森へ入って一夜を明かした。