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2020年 冬の屋久島歩き旅

編集後記

編集後記

雨との闘い

今回は合計で32日間の屋久島旅となった。

その間に小雨も含めれば18日間は雨か雪が降った。 元々屋久島は非常に雨の多い島で、それは理解していた。 それでもやはりこうも雨が多いと旅をするのも一苦労だ。 旅をするだけなら多少の雨ぐらいは気にしなくても良いのだが、写真撮影をしながらとなるとやはり雨の日は動きづらい。

屋久島の雨の多さを表す表現に「屋久島では1ヶ月に35日雨が降る」といったものをよく耳にする。 夏の屋久島などまさにそんな様子で、上手い事を言うものだと常々思っていた。 それもそのはず、この表現は「浮雲(著:林芙美子)」という小説から引用したものなのだそうだ。 読んだことはないが、調べてみると作品の中に以下のような一節が確かにあった。

「こゝは、雨が多いンださうですね」
 富岡が一服つけながら、軽い箱火鉢を引き寄せて聞いた。
「はア、一ヶ月、ほとんど雨ですな。屋久島は月のうち、三十五日は雨といふ位でございますからね……」
 レインコートを被つてゐた男が云つた。レインコートを取ると、案外若々しい男であつた。学者らしい感じだつた。

林芙美子「浮雲」- 新潮社

なるほど、さすが本職の文章書きは上手い表現をするものだと感心した。

実際の所屋久島が仮に雨のあまり降らない島であったならばここまでの雄大極まりない大自然は生まれなかったことだろう。 これだけ雨が多いからこそ、土壌の薄い屋久島でもここまで広大な森林が育ってきたのだ。 このうんざりするほどの雨量がなければ魅力的な被写体も存在しなかったかもしれないのだ。 そう思えばこの雨にも感謝しなければならないのかもしれない。

世界自然遺産と自然保護

屋久島は今回が3度目となるが、何度来てもやはり屋久島の自然は素晴らしいものだ。 しかし素晴らしいものであるだけに残念に感じた部分もある。

本文の中でも少し触れたが、完全に観光地化された縄文杉周辺の雰囲気はやはり興醒めだと言わざるを得ない。 過剰なまでに整備された木道と展望デッキ、多くの人で混雑する中、そこから遠目に眺める縄文杉。 さて、それは果たして自然を楽しんでいることになるのだろうか。

自分にはそれが無理矢理自然を見せつけられているように感じられてならない。 「さぁここに素晴らしい自然がありますよ。綺麗に整えましたのでどうぞご覧ください。」、と。 その対象となる縄文杉自体は極めて貴重で素晴らしいものなのに、それを取り巻く環境が台無しにしているように思う。

自然保護だなんだと叫ぶ人もいるが、そもそもここまで大量に人が入れる環境を作った時点で自然保護に失敗しているだろう。 これは白谷雲水峡や荒川登山口に通じる舗装路を作った時点でもはやこうなることは避けられなかったのだろうと思う。 北アルプスの上高地や富士山の五合目、立山の室堂なんかもそうだが、結局のところ簡単にアクセスできる道を作るから誰も彼もが押し寄せてしまうのだ。 これが「縄文杉まで頑張っても山道で片道2日かかる」といった環境ならこんな状況にはならなかっただろう。

とはいえ自然保護云々を横に置いて純粋に経済活動として考えればこれ以上魅力的な観光資源はなかなか存在しない。 現地の人にとって大きな収入源になっているのは間違いないし、安易に否定するべきではないのかもしれない。 そもそも自分の土地ではないからああしろこうしろと言うこともできないのかもしれないが、国有林に対してであれば国民の一人として意見を言う権利ぐらいはあるだろうと思う。

さて、ならばどこまで許容してどこからは規制するべきなのかと考えれば、そんなものに答えが出るわけはない。 様々な利害関係が渦巻いていて、最終的にはその地域に対して強い影響力を持つ一部の人間の意向によって方向性が決まると言って良い。 それが世の中の常だ。 それが嫌ならこちらも影響力を行使できるレベルで反対活動をすればいいのかもしれないが、残念ながら自分にはそこまでの熱はない。

せいぜい自分にできるのはこれ以上不必要に観光開発が進まないでもらいたいと願うことぐらいだ。 訪れたかった場所に魅力がなくなってしまえば、他の場所で興味の対象を探すだけだ。

それでも屋久島は美しい

なんだか愚痴っぽくなってしまったが、今回の旅ではそんなようなことを考えさせられた。

果たして「自然を守る」とは一体どういうことなのだろうか。

もっともそんなことを言っておきながら思うのは、それでもやはり屋久島の自然は実に魅力的であるということだ。 言ってみれば縄文杉や白谷雲水峡は屋久島の極一部に過ぎない。 それ以外の場所にも面白い場所は沢山あるだろう。 地図に載っている登山道ですらまだ歩いたことのない道が沢山ある。 地図に無くても楽しい場所はいくらでもあるだろう。 そういった部分に足を踏み入れていけばいつまでだって遊べるだけの魅力が屋久島には詰まっていると思う。

きっとまた少しすれば屋久島に行きたいと思うようになっている。

これは間違いないことだ。

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