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2020年 冬の屋久島歩き旅

03. 花之江河歩道と巨岩の山

03. 花之江河歩道と巨岩の山

花之江河歩道

静かな原生林を歩く

石塚小屋を後にしてヤクスギランドへ向かうべく花之江河歩道へ入る。 小屋を出るとすぐ「この先屋久杉ランドへの歩道は荒れています。気をつけて」という看板が立てられていた。 この道を歩くのは今回が初めてだが、さて、どんな道だろうか。

マンモスの牙のような枝
スギゴケ

先日まとまって降った雪も、その後の気温上昇と雨でかなり目減りしている。 湿っぽい雪を踏みながら進むとしばらくして地図に「みはらし台」と書かれている地点へ出た。 展望台はどこだろうと見回すと、目に入ったのは大きな岩の脇に垂れる太いロープだった。 そのロープを使って岩の上によじ登る。

そこからの展望は実に良好だった。 それなりに高さがある上に手すりも何もないので少々怖いが、足元に注意しながら景色へと目を向ける。

宮之浦岳周辺の山並み
翁岳
多様な木々が入り交じる森
みはらし台から海側の眺め

北西の方角にはつい数日前に登った宮之浦岳と周辺の山々が並んでいる。 あれだけ苦労させられた雪もその大部分は解けてしまったようで、山頂付近にわずか白さを残すのみとなっていた。

眼下には広大な森が広がり、多種多様な樹木が隙間なくびっしりと大地を埋めている。 海の方に目を向けると少し雲のある空で太陽が強く輝いていた。 島に入ってからというものずっと天気が不安定だったが久しぶりに良い天気に恵まれそうだ。

エイリアン

みはらし台から先は長く緩やかな下りが続く。 石塚小屋の看板には荒れていると書かれていたが、実際歩いてみるとそこまで気になる程のものでもない。 確かに最低限しか整備はされていない印象だが、そもそも通る人もかなり少ないのだろう。

悪く言えばほったらかしに近い状態だが、そのおかげもあって自然な状態の森を楽しむことができるのは嬉しいところ。 観光地にありがちな過剰なまでに整備された木道などは正直興醒めするので好きではない。 ただ自然を楽しみたいだけなのに否応なく人工物の気配を感じさせられてしまうからだ。 その点この道は多少の整備はされているものの、ほとんど自然のままの状態が維持されている。

ねじくれた木
ビャクシン沢

標高を下げるに連れて徐々に雪の白が減り、土の茶色が増えてくる。 やがてビャクシン沢を越える頃にはほとんど雪はなくなっていた。

大和杉

大和杉への分岐点

石塚小屋から6時間程歩いたか。 大和杉への分岐を示す道標が現れた。 道沿いにあるのかなと思っていたが少し脇に逸れるようだ。 ステップの刻まれた道を下りていくとその先に巨大な杉が見えてきた。

大和杉

大和杉の足元には申し訳程度に立ち入り禁止のロープが張られているが、その前に立てばもう幹に手が届くほどの距離だ。 そこから見上げる大和杉は実に迫力満点。 やはり巨木は間近から見るに限る。 縄文杉も昔はこんな風に見上げることができたのだが、ガチガチに展望デッキが整備されてしまったのでもう二度とこんな視点から見ることはできないだろう。

オオゴカヨウオウレン
ツバキの花

さらに標高が下がりほとんど雪を見なくなってくると、代わりにちらほらと白い花を見かけるようになった。 まだ2月も頭だというのにもう春の花が咲いているのか。 調べて見るとオオゴカヨウオウレンという花のようだ。 さらに下っていくと落ちたツバキの花も増えてくる。

ヤクスギランドから花之江河歩道への入口

15時近くなってようやくヤクスギランドへ到着した。 花之江郷歩道の雰囲気が良かったせいでのんびりしすぎたか。 太陽もすでにだいぶ傾いている。 暗くなる前に寝る場所を探さなければ。

ヤクスギランド

母子杉
ヤクスギランド

時間に余裕があればヤクスギランドをゆっくりと見て回りたいところだったが、今回は最短コースで太忠岳方面へ急ぐ。

道沿いにある名前の付いた杉を眺めつつ、しかしやや速足で先へ進む。 途中の沢沿いに綺麗な流れを見つけたので念のため夕食用に汲んでおいた。

太忠岳へ続く登山道

蛇紋杉の分岐を北に、太忠岳歩道へ入る。 ヤクスギランドは観光客向けにしっかりと整備されている印象だったが、ここから先は完全に登山道になっていた。

周囲を見回しながら歩いていると、かなりの太さがある切り株が所々で目に入った。 少なく見積もっても樹齢数百年はありそうなものばかりだ。 植林帯の雰囲気ではないので天然の屋久杉を切ったものだろう。 なんという勿体無いことをしたものだろうか。

昔から屋久島で暮らしてきた人々には屋久杉を大切にしようという考えが根強かったようだが、必ずしも全員がそうだったわけではないだろう。 屋久杉は木材としては極めて高品質だというし、それで商売をしようとする人間がいるのもまた自然なことなのかもしれない。 その辺りの事は道中の看板に少し書かれていた。 どちらが正しいという絶対的な基準があるわけではないが、それでもやはり感じずにはいられない。 本当に勿体無い、と。

森の守護神

しかしそう思う反面、人に切られた切り株でもそこから様々な魅力を感じることがある。 単純にその形状であったり、切られた後にそれを苗床にして次世代の木々が育っていく様子であったり、あるいはそれにまつわる歴史的・文化的背景であったりとか。 切らないで済むのであれば切らないでいて欲しかったが、すでに切られてしまったのであればその現状から何かを見出してみるのもまた面白いだろう。

名も無き巨木

またしばし登っていくと夕暮れの迫る森の中で一本の巨木に出会った。 屋久島には名前の付けられた大木・巨木は数多いが、それ以外にも見応えのある大木がかなりの数存在する。 森を歩いていて偶然そんな木に出会うと嬉しくなる。 登山道を歩いていてすらそんな出会いがしばしばあるのだから、島全体で見たら誰にも知られていないそうした木が山ほど存在するのだろう。 そんな冒険もしてみたいものだが、現実問題なかなか難しいだろうか。

巨岩のある山

太忠岳とオベリスク

森の中で一夜を過ごし、翌朝まだ薄暗い中を太忠岳へ向かい登り始める。

木々の隙間から朝日が射す
森で迎える夜明け

しばらくすると森の中に赤い光が射し込んできた。 樹間に覗く空は青い。 このまま一日晴れてくれると良いが、さて。

太忠岳

道は途中から急登になり、見る見る内に標高が上がっていく。 それに合わせて再び雪が目に付くようになった。 硬く凍っている所も多かったので途中でアイゼンを付ける。 きつい登りが続くが今日は荷物をデポしてきたので足が軽い。 コースタイムよりかなり早く山頂直下までやってきた。

眼前には聳え立つオベリスク。 その足元には巨大で上面が平らな巨岩。 その隅に垂らしてあったロープを使って平らな岩の上に出る。

太忠岳のオベリスク
安房港と種子島

晴れ渡る青空の下に屋久島の山と森が広がる。 その向こうには安房の港と海、そして種子島。 屋久島に渡ってから2週間、これほど綺麗に晴れた空を見たのは初めてだ。 それどころか過去に屋久島を訪れた時のことを思い出してもここまでの快晴は記憶にない。 極めて雨が多い屋久島ではこのような天気は珍しいのではないだろうか。

風もほとんどなく、日差しがぽかぽかと暖かい。 真冬だということを忘れてしまいそうな陽気だ。 足元の岩に触れると太陽の熱でほんのりと暖かくなっている。 すぐに下りてしまうのはあまりにも勿体無いので、しばし岩の上で日向ぼっこに興じる。

開聞岳

視線を左に動かすと水平線に何か見える。 綺麗な三角形をしたシルエット。 九州本土の開聞岳だ。 100㎞近く離れているのにここまではっきり見えるとは運が良い。 ということは九州本土から屋久島が見えることもあるということか。 それも見てみたいものだが難易度は高そうだ。

石塚山と巨石の鳥居

太忠岳の稜線からさらに奥へ進むと石塚山がある。 最初は時間的に行くのは難しいかと思っていたが、意外に早く太忠岳に登れたので思ったより余裕がある。 なかなか来れる場所でもないので、この機会に石塚山にも登っていくことにした。

氷の中に見える虹色

マイナールートなのか、石塚山へ続く登山道の分岐にはロープが張られていた。 それでも歩く人は多少いるようで少ないながらもトレースが残されている。 道はややわかりにくいがトレースとテープを頼りに先へ進んで行く。

石塚山の手前にある花折岳は横を巻いた。 後から聞いた話ではこの花折岳も山頂を越えていくルートがあるらしいが、今回はその道に気付くことができなかった。 次に来る機会があったら探してみるのも良いだろうか。

ところでこの花折岳という名前には少し気になるものがあった。 屋久島には岳参りという文化があり、山でお参りをした帰りにはシャクナゲの花を折って持ち帰るのだという。 この先の石塚山も岳参りで訪れる山のひとつであるということだし、もしかしたらこの花折岳の名前はそれが由来なのだろうか。 確認したわけではないが、ふとそんなことを思ったのだ。

宮之浦岳
石塚山の巨石
石塚山から見る太忠岳のオベリスク
硫黄島
石塚山

石塚山の山頂直下はよじ登るような急登になっており、それを詰めると見晴らしの良い山頂に出た。

相変わらず快晴の空と360度のパノラマ。 すぐ下には巨大な岩がそそり立つ。 地図には「巨石の鳥居・鏡岩有り」と書かれている。 鳥居のようには見えないので鏡岩の方だろうか。 そうすると巨石の鳥居というのはどこにあるのだろう。

その鏡岩と思われる岩の向こうには先の尖った愛子岳が見える。 あの山も景色が良いと聞くので余裕があれば後で登ってみたい。 ぐるりと視線を動かすと先ほどまでいた太忠岳のオベリスクや、少し前に登った宮之浦岳まで綺麗に見えている。 北寄りの方角には噴煙を上げる硫黄島。 なかなかに素晴らしい眺望だ。

しかしやはり巨石の鳥居らしきものが見当たらない。 山頂の少し下に分岐があったがその先だろうか。 そう思い至って道を少し戻り、その分岐を奥へ入っていく。

巨石の鳥居

そのすぐ先に予想通りそれはあった。 真っ二つに割れた巨大な岩、その割れ目の上を覆うように別の岩が載っている。

倒れた鳥居
巨石の鳥居内部の石碑

巨石の鳥居の前には金属の鳥居も建てられていたようだが、壊れて横に転がっていた。 巨石の鳥居の割れ目は人が一人通れる程度の幅で、その突き当りには石碑が祀られていた。 「伊邪那美命」「伊邪那岐命」と彫られている。 イザナミとイザナギ、日本神話に登場する神様の名前だ。 正直に言えばどんな神様なのかよく知らないが、取り合えず旅の無事を祈っておく。

くぐり栂

最高の登山日和に太忠岳と石塚山を堪能することができ、満足した気分で山を下りる。 ヤクスギランドまで戻り、くぐり栂をくぐるとその先で車道に出た。 13日ぶりに見るアスファルト。 懐かしくすら感じる。 ここから荒川登山口を経由して高塚小屋まで行けば山岳エリアをぐるりと一周繋げることができる。

車道から太忠岳を望む

ヤクスギランドから荒川登山口までは約6㎞の舗装路が延びる。 残念なのはこちら側には登山道がなくどうしても舗装路歩きをしなければならないことだ。 いっそバスを使おうかとも考えたが、本数が少なく待ち時間はかなり長い。 それにここまでずっと徒歩で来たわけだし、せっかくなので歩き通してみたい気もする。 そう思いバスを待つことなく歩を進めることにした。

安房森林鉄道

夕暮れの軌道歩き

荒川登山口

荒川登山口に着くとちょうど作業を終えたトロッコが車庫に入ろうとしていた。 すでに15時半が近く、業者も登山者も行動を終える頃合いだ。 登山口には立派な休憩所とトイレがあったのでそこで泊まって明日登ろうかとも思ったが、なんとなく車が出入りする場所は嫌だったので少し山に入ってから寝床を探すことにした。

荒川登山口に入ってすぐの橋

トロッコのレールが敷かれた橋を渡り、それに沿って歩いて行く。 さすがにこの時間に登っている人は他にいなかったが、逆に下山中のグループとは何度かすれ違った。 恐らく縄文杉を日帰りで見に来た人達だろう。

素掘りのトンネル
安房森林鉄道の軌道

登山道にもなっているトロッコの軌道はまだこの奥で伐採が行われていた時代から使われているもので、今でも森林の管理などに使用されている。 今ではレールの間に木の板が敷き詰められ歩きやすくなっているが、それも昔はなかったそうだ。 そのため特に橋では足元がすかすかでかなり怖かったと聞く。 若干高所恐怖症気味の自分では当時の橋を渡ることはできなかったかもしれない。

気になる道

薄暗くなり始めた中を進んでいると、ふと道の脇に古い石段のようなものが見えた。 地図を見ても登山道のラインはおろか、薄い線も何も描かれていない。 割としっかり段を組んであるし、人が住んでいた頃の生活用あるいは古い登山道の名残か何かだろうか。 奥を見に行ってみたい誘惑に駆られるが時間もだいぶ遅いので諦めて先へ進むことにする。

大山祇神社

トロッコ軌道の分岐
大山祇神社

荒川登山口から40分程で小杉谷集落跡の近くまでやってきた。 ここで道が分岐しており、右に曲がり橋を渡ると小杉谷集落跡へ、直進する道は廃道だが先日訪れた石塚小屋方面へ続いている。

ルートとしては右へ進むのが正解だが、地図を見ると直進方向に進んですぐに神社があると書かれている。 すぐ先のようなのでついでに見に行ってみることにした。

大山祇神社の鳥居
大山祇神社

地図に書かれている通り、分岐のすぐ先に鳥居と石段が現れた。 地図では「大山神社」と書かれているが、鳥居には「大山祇神」とある。 愛媛県の大三島にある大山祇神社の系統だろうか。

やや段差の大きい石段を登ると小さな社があった。 まだこの辺りに集落があった頃に作られたものだろう。 今では完全に廃村となり誰も住んでいる人はいないはずだが、よく見ると誰かしらが手入れしている形跡があった。 入口の鳥居には比較的新しい枝が供えてあったし、社の注連縄もそんなに古いようには見えない。 今でもここを大切に思っている人が時々訪れているのだろう。

そんなことを思っている間にいよいよ暗くなってきた。 一度先程の分岐まで戻り、少し先にある小杉谷集落跡の休憩所へ移動して夜を明かした。

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